
彼は椰子の葉蔭に入って腰を下ろしてしばし憩いを求めた。グリンや赤や茶色の縞の人絹の服を着た様にギラギラと光る十五糎程のとかげがチョロチョロと彼の前を横切ろうとした。
彼は腰を少し許り上げて、持っていた篠を持ち上げて、身構えた。狙いを定めた。ハッシと打ち下ろしたつもりだが手元がくるって、尻尾の先だけがミミズの様にハネ廻っていた。腹の皮が背中にくっついて腹の中丈がキュウキュウ鳴いて、生つばがかわいた胃の腑からこみ上げて来た。「今度こそ逃がしはしないぞ」彼は息をこらしてトカゲを待ち構えた。中々出て来ない、彼は腰を下ろしてボンヤリと考えるともなく食べ物をさがし廻る毎日の生活を考えていた。
「こんな生活が何になるのだろう」
「我々は何の為に生きているのだろう」「死んで仕舞った方が増しだ」
「いやいや、この島に生き残って、こうして居る事が、敵を少しでもニューギニアに引き付け、内地攻略が少しでも遅れるんだ、決して無駄ではないんだ」「決して無駄ではないんだ」彼はこんな独り言、と云うより心の中でつぶやいていた。
カサカサと音を立てて、茶色に変わった、椰子の葉蔭から椰子の枯葉と同じ色のトカゲの顔がニューと出た。彼がじっと目をこらしていると、ツヽ、ツヽと二十糎程のやつが彼の方へ近づいて来る。彼はとっさに攻撃の姿勢を取った。持った篠を思わず振り上げた。ツツー、トカゲは更に近づいた。彼ははやる心をじっとおさえて、射程距離(篠の届く距離)に近づくのを待った。ツツー、トカゲが前進した瞬間彼は篠を振り下ろした。
パチ、篠が地面をたゝく音がした。見事に決まってぐしゃっと、顔がつぶれて赤い舌を出し、胴体と尻尾をヒクヒクと動かしている。彼は持っていた篠を投げ捨てヽ夢中でそれを拾い上げた。よごれた土を振るいのけるのも待ち遠しく、頭からボリボリむさぼり喰った。トカゲの尻尾が彼の口元で左右にハネ動いている。見る見る内にその尻尾も彼の口の中へ吸い込まれて仕舞った。腹がククーと鳴った。空になっていた胃の腑に物が入ったのだから反って腹の虫がキューキューと耳に聞こえる程の音を立てて鳴いた。 |