
父は生前定年退職したらニューギニアの戦争について本を書くのだとよく言っていた。そうして定年になってから時々机に向かって原稿を書いていた。しかし、書きたいと思っていた事が朧げになって苦労していた様に思える。少しづつ記憶を辿り、原稿用紙に二枚、または三枚と短い事柄を書き留めていた。まだ書きたい事も有った様だし、文章も直したいと思っていただろう。書き掛けのものがいくつか残っている。志半ばで肝臓を患い入院する事になって、何回か入退院したが、結局帰らぬ人となり、編集作業は全くされずに終わった。残念だっただろう。
読み難いので、長い間、原稿はそのままになっていたが、私も何時かは父のものを纏めておきたかったし、もういい加減にやらないと、読んでくれる人が居なくなると困ると思い、原稿を整理したのが本書である。細切れの原稿は、私の独断と偏見で今の順番に並べた。並べてみると、ばらばらではしょうがないものが、結構纏まった所もあるし、どうしても落ち着きの悪い所もある。食べ物の話しばかりで他に言う事はないのかと思った時もあるが、父の苦労、人柄が偲ばれるので、ある程度纏まりの有るものは削らずに収録した。父ならどう編集しただろうか。私の編集がこれで正しいとは限らないので、読んでいて矛盾を感じた時には、お許し願いたい。
これを編集していて、元気な頃の父や、晩年の父の入院生活の異常な程の我慢強さが思い出された。血を吐き、次第に腹水が溜まる中で、父はニューギニアの事をきっと思い出していただろう。苦しくとも最後まで抜かなかった腹水を抜いた後、母や先生、看護婦さんに有り難うと言いながら旅だって行った。さすがに父らしい最期だった。
本書を母に、家族に、また父を懐かしんで戴ける全ての人に捧げる。
一九九三年盛夏
高尾にて
和輝 |