
暗い闇に一点の火がともり、見る見る広がって虹の様に七色の色彩が視界一杯に燦然と輝いたと思うと、それは慈光を放つ観世音菩薩の姿となった。女の私がみても、それはそれは美しいお姿でした。私が観音様に見とれていると、観音様は見る見る中に小さくなって、私の手のひらに乗りました。手のひらの上で三寸程の金色観音様は目がくらむ程輝いていました。而し不思議な事に観音様の微笑みを含んだ優しい表情がはっきりと見え、動く唇が薔薇の如く美しく「お前は誠実な女子(おなご)よな」と申されました。私はおうむ返しに「私は誠実な女です」と答えた。すると観音様はご満足のご様子で「お前に幸(さち)を」と云われた様な気がしました。私は余りの有り難さ、嬉しさに目を覚ましましたが胸がドキドキ瀧の様な音を立てて、血の流れるのを感じ、不思議な夢を想い返したが観音様の最後の言葉が「お前に幸をさずけ」当たりで消えてしまってその後が思い出せません。
母を亡くし女手のない家庭の日々の忙しさにこの夢もすぐに忘れ果てました。
一家七人の家庭を切り回していると、心の何処かで母が居て呉れたらと思う、私は亡母の夢を良くみる。夢の中で、私は母に云います。
「お母ちゃん、ほんとに帰って来て呉れたのか」
「本当に帰って来たんや。しかしまたすぐあっちへ帰らんならんのや。あっちも世間があって、ちゃんと約束を守らにやならんのや。時間が来ると帰らにやならんのや」
この話しを私に聞かせながら、私に妻は実感を込めて、「あの世って本当にあるのかしら」と云った。 |