
小野軍曹は今日も早から襦袢袴下の虱退治に忙しい。毎日毎日取り替えているのに石油缶で煮ると薄赤くなる程虱がたかる。隣に寝ている××兵長の毛布を引パイで見るがさほどに目立っている訳でもない。隣の隣の此間から寝たきりの××軍曹がどうも臭い。病人だからと思って遠慮していたが、もう我慢が出来ない。毛布をハッと剥いで見て、びっくり、まるで白胡麻を撒いた様に毛布一面虱の洪水、全く身の毛がよだつ思いがした。一山(一人)も二山も越えて虱が移動する訳だ。こんなに居ては、毎日いくら退治しても追いつかない筈だ。××軍曹がしがみ付く毛布をふんだくって百米程先の海の中へ投げ込み上から岩や石で毛布を海中に沈めた。虱はいずれ魚の餌食になって仕舞うだろう。二三日して毛布を引き上げ水洗いして帰してやればよい。それに××軍曹が身に付けていたもの一切は熱湯消毒をやらねば何もならない。早速、石油缶で煮た訳だが、何と真っ赤になる程血を吸われている。これでは元気な人間でも病気になる筈だ。よくまあこれ丈虱にやる血があったものだと、感心したり、あきれたり、それからも毎日毎日着替えを煮炊きしているうちに虱もいなくなった。
ニューギニアの山野を這い廻っていた時は蟻まで喰ったのだし、蛆虫さえも喰えぬかと思案したのだから人間の血を吸った虱の方が余程に栄養があったに違い無いのに何故その時は喰う気が起こらなかったのだろうか。血を吸われたら大変だと云う恐怖心が先に立ったのか或いはそこまで気が廻らなかったのか。兎に角、虱は喰わなかったし、喰う気も全く起こらなかった。 |